不動産バブルが崩壊してから“失われた30年”がたったわけですが、この間の景気は多額の財政出動にも拘らず低迷し続けてきました。このため、日常生活になるべくお金をかけたがらない風潮が強まってきて生活の簡素化が進んできました。
すると、儀式の代表格である葬儀にまでその影響が及んできて、通夜と告別式をゆったりと行う気持ちもなくなってきたようです。親しい親族だけ呼んでこぢんまりと家族葬をしたり、1日葬で済ますことも珍しくなくなってきました。
火葬場の火炉の前で家族が故人にお別れの挨拶だけして済ます直葬も増えているようです。従って、故人の友人や知人でも葬儀に参列させてもらえなくなってきたので葬祭場へ出向く機会が減ってきたといえそうです。しかしながら、葬儀がこれほどに簡素化されても最後まで残っていそうな作法の一つが故人を前にして焚く焼香でしょう。
これは熱を持った香炉の中へ3本の指で摘まんだ抹香を落として香りを出すことで故人に向かって行う最後のお別れになります。焼香する人は自分の抱えている現生の汚れを洗い落としてもらえる機会にもなると言い伝えられています。従って、仏の世界と故人に対して心を込めて静かに行い、気持ちを新たにしないと何のために参列し、焼香しているのか、分からなくなります。